フィギュアスケートともの
-ものからみた技術と感覚-

荒川 祐有(成城大学大学院)

発表概要

日常生活のみでなく、スポーツにおいての「もの」は競技者の延長となる重要な要素である。フィギュアスケートは、スケート靴を履き、氷上で「滑走する」、「回転する」、「跳ぶ」などの動作を行う上、音楽に合わせて自己表現する面も併せ持つ特殊なスポーツである。スケート靴は、「氷上で跳び」、「着氷する」動作に耐えられる丈夫な革製の靴と、その靴底につけられた鋼製のブレードで構成されている。靴とブレードは各々別にセレクトするようになっていて、競技者は自分のレベル、身体能力、好みなどに合わせて、靴とブレードを選び合わせる。つまり、フィギュアスケートの靴は、もの一つではなくもの二つで構成されていて、スケーターは二つのものとの調和を求められる。 スケート靴におけるこの特徴は、滑りや技にどのような変化を及ぼすのかについて、感覚という視点から考察する。発表者自身がフィギュアスケートを行っていることから、参与観察を通じて氷上での感覚の変化と技の変化を言葉で記述する方法にて調査を行った。靴を変更した時のエピソードを、身体感覚の変化と技の変化から分析し、認知が生成されるプロセスを明らかにした。


ローラースケートにおけるドリルエクササイズがカーブ滑走動作に及ぼす即時的効果

○松浦 孝則(信州大学教育学部 受託研究員)
結城 匡啓(信州大学教育学部)

発表概要

本研究の目的は,スピードスケートの模倣動作であるローラースケートを用いて,5つのドリルエクササイズ(以下,ドリル)によってカーブ滑走動作がどのように変化するか実験的に比較し,ドリルの有効性を明らかにすることである.スピードスケート選手10名(日本代表4名,大学生6名)に半径8m,幅3mの同心円の範囲で「できるだけスピードを速く」滑るように指示し,3周滑走させた(実験1).その後,大学生には考案したBack押し,壁押し,ロープ引き,ベントロウ,クロスステップの5つのドリルを1日1つ行わせ,直後に実験1と同様に3周滑走させた(実験2).すべて3周目の動作を2台のカメラ(60fps)で撮影し,パンニングDLT法を用いて3次元分析を行った.
その結果,①重心速度の平均は,日本代表で大学生のドリル前より大きく,②Back押し,壁押し,ベントロウ,クロスステップの重心速度はドリル後で大きくなったこと,③重心速度が大きくなったドリルでは,支持スケートに対する重心の位置が前方になることがわかった.これらの変化は日本代表の特徴に類似していることから,ドリルはカーブ滑走動作の改善に有効であると考えた.


スピードスケート競技における強豪国と日本の育成プログラム比較

○小野寺 峻一(筑波大学大学院人間総合科学研究科)
河合 季信(筑波大学体育系)

発表概要

我が国のスピードスケートの国際競技力は、世界トップレベルである。しかし、ノービス・ジュニア世代の競技人口は減少の一途をたどり、競技力は停滞している。長期的かつ継続的に競技力を維持・向上させるためには、育成プログラムの整備が必要である。そこで、本研究は、日本とスピードスケート強豪国の育成プログラムを比較し、育成システム構築のための知見を得ることを目的とした。そのために、日本、カナダ、オランダの育成プログラムを対象にテキストマイニング分析を行った。その結果、カナダは発達段階とトレーナビリティを重視した育成を目指していた。オランダは、生涯及び楽しさに焦点を当て、具体的な方針を決めた育成を目指していた。日本は指導者の裁量を重視した育成を目指していた。日本は、発達段階に応じた育成の理念、目標、具体的な方法を明確にした育成プログラムの整備が必要と考えられる。


心拍数とゲーム統計からみた大学男子アイスホッケーの競技特性

○石井 健人(日本体育大学体育学部・日本体育大学大学院)
温水 鴻介(日本体育大学大学院)・笹田夏実(日本体育大学大学院)・島谷 康弘(日本体育大学大学院)
青柳 徹(日本体育大学スポーツマネジメント学部)・杉田 正明(日本体育大学体育学部)

発表概要

 本研究の目的は大学男子アイスホッケーの試合を対象として、試合中の心拍数およびビデオ映像を収集し、ゲームパフォーマンス分析手法を用いてゲーム統計を行い、体力的特徴や技術的特徴といった大学男子アイスホッケーの競技特性を明らかにすることであった。9試合を対象とした心拍数の分析結果から、試合中の運動強度は出場中のピークで95%HRmax前後、出場中の平均では85%HRmax前後の水準を示すことが明らかとなった。2試合を対象としたゲーム統計の結果から、選手は各ピリオド7回前後出場し、約3分間の休息を挟みながら平均約50秒間の運動を繰り返し行うことが明らかとなった。試合中の選手の動作のうち、多くの項目でポジション間に有意な差が認められ、試合中に求められる技術にはポジションの特性が影響していることが示唆された。また、試合中のシュート回数は高速滑走回数と正の相関関係にあることが明らかとなった(r=0.403 p=0.016)。これらの結果から大学男子アイスホッケーは、高強度運動と完全休息を繰り返す高強度間欠的運動という体力的特徴を有し、ポジションによって異なる技術的特徴を示す競技であると結論づけられる。


アイスホッケー競技におけるゲーム分析指標の展望

○小林 秀紹(札幌国際大学スポーツ人間学部)・橋本 文音(札幌国際大学非常勤講師)

発表概要

アイスホッケーにおけるゲーム分析の標準化のための枠組みが提案されている. アイスホッケーは1試合におけるイベント数が少なく,ランダムな偶然性が多いため,分析指標による試合結果の予測が困難とされている.分析手法については1つの試合における勝敗予測において,概ね60%の精度が上限とされる一方,より多くの試合数によってシーズン成績を予測する場合,概ね75%まで精度を高められることが報告されている.

ゲーム分析指標においては,CorsiやxGの利用が進んでいる.Corsiが指標として認識されている際にはチームは多くのシュートを打つことに努め,近年ではxGで測定されるシュートの質がより重視されるようになった.また,ゲーム分析手法においては,マルコフゲームモデルによる選手の評価が試みられるなど,機械学習等の適用が進められている.この場合,独立な分析指標から勝敗等の目的変数を予測するのではなく,ゲーム中のプレイシーケンスの順序を利用し,プレイヤーのパフォーマンスについて時系を踏まえた総合的な評価がなされている. 

本研究は,ゲーム分析指標とその分析方法の現状を整理し,今後アイスホッケーのコーチングにおいて取得すべき情報について報告する.


アイスホッケー競技におけるショット分析
ー 得点率との関連性に着目して ー

○村松 薫(早稲田大学)

発表概要

【目的】アイスホッケー競技において、大学男子の得点に繋がるショットにはどのような特徴があるのかを明らかにする。【方法】2022,2023年に行われた大学男子秩父宮杯46試合、リーグ戦162試合を対象に、試合の映像よりショットシーンを抽出する。使用する分析ソフトはHudl社のSportscode、抽出項目は、ショットの種類、ショット時のエリア、ショット前の動きである。 本研究はデータ集計前の段階であり、研究方法等について皆様からご意見・ご指導賜りたく思います。


アイスダンス史研究における基礎資料の評価
ー「Figure Skating History : the Evolution of Dance on Ice(1992)」に着目してー

○針ヶ谷 雅子(明治大学(兼任))・後藤 光将(明治大学)

発表概要

 アイスダンス競技は、1952年の第43回世界選手権(パリ)に採用され、1976年の第12回冬季五輪(インスブルック)で正式種目となったが、男女が組んで滑る、定められたステップを滑る、など、アイスダンスの原型となるスケートの手法の誕生は19世紀末に遡る。本研究で検討した「Figure Skating History : the Evolution of Dance on Ice(1992)」によれば、アイスダンスが愛好者の遊戯的滑走から競技としてのアイスダンスに移行したのが1920年代であることが確認でき、アイスダンス史を検討する上で重要な画期であることがうかがえた。アイスダンスとペアスケーティングの区別が議論され始めたのもこの時期であった。
 検討の結果、本書はアイスダンス競技史を編纂するための基礎資料と位置付けられ、今後、さらに読み解き、他の資料を検索するための足掛かりとする必要があることが明らかとなった。